溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
……やっぱり、見られている。
この違和感は、誰かの視線だ。
ただのカンだけど、そう思った私は、相手に悟られぬよう、視線だけを動かして辺りを見回す。
けれど、満員電車の中では、不審者を特定することができなかった。誰も彼も、全員が怪しく見えてきてしまう。
やがて目的の駅で地下鉄を降り、ホームでエスカレーターの方に流れていく人波をじっと見ていたけど、不審者らしい人物はいなかった。
見た目ではなく、動きや視線が不振だという意味だ。
「なんだったんだろう……」
新城さんがいたら、『そりゃあお前が綺麗だからだよ』なんて冗談を言ったかもしれない。
でも今は、そんなふうに楽観的にはなれなかった。