溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
地下鉄を降りると、いつの間にか視線を感じなくなっていた。
ホッとしていつものSPルームに入ると、中はがらんとしていて、誰もいなかった。
そうだ、今日は班長も国分邸に行って、会議に参加するんだっけ。
「静かだな……」
国分議員の警護が始まる前も、始まったあとも、いつも周りには特殊班の誰かがいた。
静かだなんて、感じたことなかった。
「……変なの」
同僚や上司がいないだけで、寂しさに似たようなものを感じるなんて。
ふるふると首をふり、自分の席につく。
パソコンのディスプレイの枠に、班長からのメモが貼ってあった。作成しておく書類の種類が書いてある。
それをピッと取り外し、パソコンの電源を入れた瞬間……。
──ブーッ、ブーッ
バッグの中から、鈍い振動音が聞こえた。まるで、弱った蜂が地面でのたうち回っているような不吉な音。
もしかして、班の誰かからの連絡?
慌てて音の出所であるスマホを取りだすと、ディスプレイには母のケータイ番号が表示されていた。