溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
なんだ、お母さんか。今は仕事中だし、休憩中にかけなおそうか。
一瞬そう思ったけど、なんだか嫌な予感がする。
幸い今は誰もいないし、短時間なら問題ないだろう。
「もしもし?」
スマホを耳にあてると、向こうから焦っているような母親の声が聞こえてきた。
『紫苑? 今大丈夫?』
「少しなら。どうしたの?」
『ねえ、今から実家に帰ってこられない?』
今から? ずいぶんと急な話だ。
「ちょっと今、上司が会議中で了解が取れないんだけど。何かあったの?」
もしかして、お父さんや葵が事故にあったとか、急病とか?
『それが……家の周りを、知らない男がうろうろしているみたいなの』
「えっ?」
『お父さんも葵も、ここ数日、誰かに見張られているような気がするって言っているの。私はそんな視線感じなかったから、二人とも自意識過剰なんじゃないのって笑っていたんだけど』
母の声が、だんだんと涙声になってくる。