溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「……え……?」
今、私なんて思った? あの時って?
「あの、とき……?」
たったひとつの星の瞬きのような刹那だったけれど、とても大事なことを思い出しそうになった気がする。
もっと鮮明に思いだそうとするけれど、その記憶はすりガラスの向こうにあるようで、ぼんやりとして形にならない。
無理に頭の中でそのガラスを割ろうとすれば、ひどい頭痛に襲われた。涙がにじみ、吐き気まで起こる。
「はあ、ぅ……」
我慢できず、デスクの上に突っ伏す。
いったい私の頭は、どうしてしまったというんだろう。
痛みから逃れられずに目を閉じる。まぶたの裏に浮かんだのは、新城さんの顔だった。
「助けて……」
こんなところに来てくれるはずはないとわかっていても、口が勝手に彼を呼ぶ。
「助けて」
新城さんは、きっとこの記憶を知っているはず。
この頭痛の正体も、彼ならわかるかも。
そして何より……そばにいてほしい。
怖い。どうして突然、私の記憶が私を襲うの?
わけがわからない。私が私でなくなってしまいそう。
お願い、新城さん。
私を、助けてください。