溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
ナニイッテルンダロウ、コノヒト。
昔から恋愛というものに縁がなかった私は、産まれて初めて聞く言葉の羅列を、もう理解しきれなくなっていた。
初対面なのにプロポーズ。
誰が本気だと思うだろう。
「どうして……?」
混乱する頭でやっとそれだけ質問すると、新城さんは王子と呼ばれる甘いマスクで言い放った。
「お前が、好きだから」
好き……すき……スキがあったから?
いや、違うか。そんな聞き違いないよな。
「……嘘です」
出会ったばかりで好きとか結婚とか、もしかして新城さんは頭がおかしいのではないだろうか。
と思う一方で、初めて男性にそんなことを言われたという驚きで、不本意ながら胸が高鳴る。
高鳴って、いるのだと思う。ドキドキして息苦しいのは、決して老人性の動悸ではないと……思う。
「ウソじゃねえよ。一目惚れってことにしておく」
ひとめぼれ。
ごめんなさい。同名のお米のブランドしか浮かばない。
それ以上反論する気力を失った私は、トイレに行くと言ってその場から逃げた。
少し頭を冷却してから戻ると、新城さんはきっちりとシャツのボタンをしめた姿でいた。
その後は、さっきのことなど何もなかったかのように、毎日の任務に関する説明をはじめた。
もしや、さっきのは幻?
いや、あんなリアルな幻があるわけない。
いったい何だったんだ……。
私は心の中で思い切り頭を抱えた。
ああ、どうしてこんなことに。
せっかく憧れのSPになれたというのに、突然ものすごく、仕事がしにくくなってしまったじゃない……。