溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


矢作さんは眉間にシワを寄せてそう言うと、班長の机をごそごそと探りだす。


「どうしたんですか?」


国分邸にいるはずの矢作さんがなぜここにいて、班長の机を探っているのだろう。


「ああ、会議が終わったんだけど、班長は他の班や偉い人と引き続き話をしてて、現場を離れられなくてさ。その間に俺が班長の忘れ物を取りに来たってわけ」

「忘れ物?」

「ああ、よりによって班長、SPバッジを忘れたんだよ」


うそ……それダメでしょ。バッジはSPの身分証明書みたいなもので、偽造を防ぐために定期的に色を変えたりしている。それを忘れるなんて……変装したテロリストと間違われても文句言えませんよ、班長。


「じゃあ、俺は行くけど……無理しないで早退しろよ。班長には報告しておいてやるから」


いつもは淡白な矢作さんが、やけに心配してくれている。

座ったまま意識を失ったんだものな。さすがの私も、自分が心配になってきた。


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