溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
『大変なんだ。今、テロリストがうちに入り込んで……』
「えっ」
『SPがひとり、撃たれた。茶髪で、前髪の長い、かっこうつけたやつ』
ぱりぱりと背筋が凍っていくような錯覚を覚えた。
それは、もしかしなくても……。
『他のSPたちは、逃げたテロリストを追ったり、大忙しだ。人が足りない』
「そんな」
『お願い、紫苑ちゃん。俺を守りにきてよ』
そう言われても困る。私は上官の命令でしか動けない立場だ。
「それより、撃たれたSP……新城さんですよね? 彼の容体は? 今、彼はどこにいるんですか?」
『それよりって……とにかくしっちゃかめっちゃかで、彼は応急手当をされただけで、俺と離れの奥の部屋に隠れてるよ』
「離れですね。救急車は呼んでもらえましたか? 警察の応援は?」
『無理だよ! 救急車が来たとしても、家はテロリストに囲まれていて、ここまで入ってこられないよ。応援は……他の誰かが呼んだんじゃないかなあ? わからないなあ』
そんなバカな。どれだけ大勢のテロリストがこんな昼間から襲撃してきたと言うんだ。
何が起きたのか、このバカの説明をいくら聞いても、わかりそうにない。