溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「近くに三田さんは?」
朝私の家から帰ったなら、もう国分邸に着いているはず。
『三田? あれっ? そういえば、いないな……』
情けない声を聞いていたら、おろおろと周りを見回す馬面が、頭に浮かんでしまった。
「わかりました。とにかく急いで行きます。ダメもとでも、救急車だけは呼んでおいてください!」
電話を切ると、母が心配そうな顔でのぞきこんできた。
「どうかしたの?」
「緊急事態みたい。行ってくる」
こんな格好じゃ、動けない。自室に戻り、手早くスーツに着替える。昨日着ていたもので、すこしシワが残っているけど、そんなことはどうでもいい。
部屋を出ると、母が待ち構えていた。
「あなたが行かなくてもいいじゃない」
母は心配そうな顔で、私の腕をつかむ。
私じゃなくてもいい。そりゃあそうだ。
こんな足で行って、何ができると言うんだろう。
おとなしく現場の警察官たちに任せておく方が、間違いないのかもしれない。