溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「でも、行かなくちゃ」
「紫苑」
「お願い、行かせて。先輩が……私の好きなひとが、撃たれたみたいなの」
そう言うと、母はさっと顔を青くした。震えた手が、私の腕から離れていく。
「そんな……」
「ごめんなさい。行ってきます」
母の横をすり抜けて階段を降り、玄関を出ていこうとすると、背後から声がかかった。
「無事で帰ってくるのよ! お母さんにその彼を紹介してちょうだいね! 絶対に!」
思わず振り向いてしまった。
いつも『SPなんて早く辞めろ』と言っていた母が私を激励し、涙をこらえているような顔をしていた。
じんと胸が熱くなる。
お母さん、いつも見守ってくれてありがとう。
私は人生で初めてできた本当に好きな人を、今から守りに行きます。
そして、二人で一緒に帰ってくるからね。
決心してうなずくと、私はパンプスで走りだす。
足の痛みを感じながら、それでも全力で、彼に向かう道を駆け抜けた。