溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
10.甦る記憶
「う……」
ずきりと頭に走った痛みで、目が覚めた。
何度か瞬きを繰り返すと、次第に周囲の景色の輪郭が浮かび上がる。
まず見えたのは、何足もの男物の革靴。
視線を上げると、スーツの知らない男たちが私を囲んでいるのが見えた。
時計は見えない。部屋の暗さから、なんとなく夕方だろうと推測する。
ここはどこだろう。床にへばりついていて、周囲の様子がよくわからない。
「あ、やっと起きた」
聞き覚えのある声がして、ハッとする。
声のした方を見ようとしたが、どうやら後ろ手に縛られ、足首も拘束されてしまっているようだ。
口元にはにおいはしないが布のようなものが巻かれている。大声を出させないためだろう。
おそらく、私は薬品をかがされて気を失ってしまったのだろう。
けれど、怪我はしていないみたいだ。
自由にならない体でなんとか声の主を探そうともがいていると、コツコツと、革靴の足音が横から近づいてきた。
そして目の前まで来たかと思うと、声の主はゆっくりとしゃがんだ。
やっぱり。お前だったか。