溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「こんにちは、一ノ瀬ちゃん。久しぶり」
馬に似た顔でこちらを見下ろすのは、アホ息子もとい国分議員だった。
何がおかしいのか、その表情にはうっすらと笑みのようなものが浮かんでいる。
いったいこれはどういうこと? ここはもしや、国分邸の中なの?
聞こうとするが、布に阻まれて言葉にならない音だけが漏れる。
「仕方ないなあ。大声を出さないでよ。出したら、おしおきだからね」
そう言い、議員は私の口元の布をはずした。
手足が自由にならないせいで、横たわったまま、議員を見上げる。
「国分議員、これはいったいどういうこと?」
どうしてSPの私が、元マルタイの前で拘束されているの?
「どういうことって……どうせ君は全部わかってるんだろう?」
わからないから聞いているんだけど。
相変わらずイラッとする喋り方だけど、今はそんなことにこだわっているときじゃない。