溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


幼い私はランドセルを下ろすこともしないまま、立ち尽くして肩を震わせる。

学校でも自宅でも安心できることがなくて、ストレスが溜まっていた。

両親は夜ごとケンカをしているのか、たまに怒鳴りあいのような声が聞こえてくる。

それを話すと、お兄ちゃんはよしよしと私の頭を優しくなでてくれた。


『泣いていいよ。誰にも言わないから』

『どうしよう。お引越ししたら、お兄ちゃんに会えなくなる。そんなのいやだよ』

『ひかり……』


優しく私の名を呼ぶお兄ちゃん。

彼は幼いころから、私の面倒をよく見てくれた。

家が近くで、母親どうしが友達ということもあったのだろうけど、今思えば自分の友達と遊ぶ時間を犠牲にしてまで、私の世話をしてくれた。

私は彼を信頼しきっていて、甘えていた。

子供だったから仕方ないとはいえ、彼になんて負担をかけていたんだろう。

それなのに彼は、嫌な顔ひとつせず、私の頭を撫で続けてくれていた。

そんなとき。


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