溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「……お前、国分って名前に聞き覚えはないか?」
上着を羽織っていると、新城さんが私に聞いてきた。
「そりゃあ元総理ですから、聞き覚えはありますけど」
「それだけか?」
「はい?」
新城さんの言わんとしていることがわからなくて、首をかしげる。
「新城、話はあとだ。とにかく現場に急行」
班長に言われて、新城さんはうなずいた。
「了解」
いつものクールな表情で、新城さんは部屋を出ていく。
私は最後にSPバッジをスーツの襟につけ、その後を追った。
……つかめない人。
いつも何かを言いたそうな顔をしているのに、肝心なことは何も言わない。
いつも、何をいいたいのかわからないまま、会話が終わってしまう……。
余計な事を考え込みそうになって、ぶるぶると首をふった。
これから初の警護だというのに、何を考えてるんだ私は。
現場での経験を積んで、早く一人前のSPになるんだから。
私はぎゅっと拳を結び、先輩たちに置いていかれないように大股で歩いた。