溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
器用に自分で背中のファスナーを閉じると、そのへんにあった箱から、大きなリボンがついたよそ行きのカチューシャを探し出し、自分の頭に装着。
そうして目の前に現れたのは、少し小さな服を着た、茶色い髪の美少女だった。
『お兄ちゃん……』
階下からは、いつの間にか物音が消えていた。
静寂が逆に恐ろしくて、膝がかたかたと震える。
『いい? 俺の言うことをよく聞いて』
なんとかうなずく私。
『今から、俺が先に階段を降りていくよ。俺がやつらをおびきよせて、家の外に出ていく』
『やつらって?』
『悪者だよ』
悪者? 悪者が、家の中に入っているの? 怖い……。
『大丈夫。悪者は、俺を追ってくる。家の中が静かになっても、ひかりはここを絶対に出ちゃダメだ。俺が、助けを呼んでくるから。それまで、じっとしてて』
そんな。ひとりにしないでほしい。それに、そんなことをしたら、お兄ちゃんが悪者に捕まってしまうかもしれない。
『やだよ……お兄ちゃん』
『大丈夫だよ。すぐに戻ってくる』