溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
そう話しているうち、階段を昇ってくる足音が聞こえた。
お兄ちゃんの顔に緊張が走る。
『いい?絶対に出ちゃダメだよ』
『そんな……』
『絶対に、また会えるから。約束するよ』
そう言い、無理に笑ったようなぎこちない笑顔を見せたお兄ちゃんは、クローゼットから出ていく。
私は暗いクローゼットの中で、震えたままうずくまった。
部屋のドアを開ける音が聞こえ、ほどなくして……。
『娘がいたぞっ!』
『やれっ、逃がすなっ』
何人かの男の人の、低い声が聞こえた。
娘って? もしかしてお兄ちゃんのことを言っているの?
やがて、階段を誰かが転げ落ちるような音や、物を投げる音、それがぶつかって壊れるような音が次々に聞こえてくる。
お兄ちゃん、お兄ちゃん。
どうか、無事でいて。
祈るようにお兄ちゃんが脱いだ服を抱きしめていると、やがて何の音も聞こえなくなった。