溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
出ていきたい。お兄ちゃんに会いたい。
パパやママは、どうしてしまったの?
私は暗くて狭いクローゼットの中で、とうとう泣きだしてしまった。
早く、明るいところに出たいよ……。
そうしてどれだけの時を過ごしただろうか。
突然、クローゼットの向こうから声がした。
『ひかりちゃん! ひかりちゃん、いるか!?』
知っている声だった。父親の友達だ。
安心してしまった私は、お兄ちゃんのいいつけを破り、声を上げた。
『助けて、おじちゃん!』
『ひかりちゃん。そこか?』
クローゼットの扉が開く。そこには、やっぱりたまに遊びに来る中河のおじちゃんがいた。
すっかり夜になってしまったようで、おじちゃんの表情は暗くて良く見えない。
『よく無事で……!』
おじちゃんは私をクローゼットから引っ張り出し、思い切り抱きしめた。
その手は、少し震えていた。
『ひかりちゃん、おじちゃんと逃げよう。あとで話をするからね』
おじちゃんは私を抱っこすると、足早にその場を後にする。