溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
痛みに備え、ぎゅっと目をつむった。
その時。
「いい加減にしろよ、バカ息子」
ドアの開く音がしたと思ったら、怒鳴るような声が聞こえた。
ハッと目を開ける。
男たちの足の間からかろうじて見えたのは、重たそうなドアの前に立っている、新城さんの姿だった。
茶色の髪。くっきりした二重のラインに、瞳を縁どる長いまつ毛。
ああ、やっぱりあなただったんだ。
あのとき、身を挺して私を守ってくれた『お兄ちゃん』は……。
確信すると同時、ぼろぼろと涙が溢れた。
私はやっぱり、昔にあなたと会っていたんだ。
あのときエレベーターの中で少女は、幻なんかじゃなかった。
あれは、蓋をされていた私の脳が記憶していた、過去のあなたの姿。
「おにい……ちゃん……」
あなたは私を覚えていてくれたんだ。
そして、再会した瞬間に、私がひかりなのだと見抜いてくれた。
「ごめんなさい」
それなのに私はどうして、今の今まで何も思い出すことができなかったんだろう。
「ごめんなさい……!」
私はあなたを、絶対に忘れてはいけなかったのに。