溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
警視庁警備部警護課。
『特殊班』とプレートに書かれた部屋の前で、深呼吸をする。
警察官の精鋭がそろうと言われている警護課。
SPの中の女性の割合は、全体の1割にも満たない。
きっと、今までとは比べ物にならないくらい過酷な毎日になることだろう。
覚悟はできていたはずなのに、ドアをノックする瞬間、やはり緊張した。
「はい、どうぞ」
ドアを開けようと思ったのと同時、返事をしながら中から人が出てきて驚いた。
身長173cmの私が見上げるくらい背の大きな男性は、私の姿を見てにこりと微笑む。
「すみません、驚かせちゃいましたか。あなたがいらしたのが見えたので」
どうぞ入ってください、と男性はドアを開けたまま私に、部屋の中に入るように促す。
さすがSP。普段から要人警護にあたっているだけあって、動きが柔和でスムーズだ。
でも、『見えた』って?『足音が聞こえた』ならば、理解できるけど。
いや、私の聞き間違いかもしれない。
切れ長の目で前髪をオールバックにしたスーツのその人に会釈をし、中に入ると……。
「いらっしゃーい!」
「待ってたよー、新人さん!」
拍手とともに、明るい声で出迎えられた。
中には最初の男性の他に4人おり、その中の茶髪の中年男性とふわふわとした浮かれたパーマの女のような顔をした男性が、にこにこと笑ってこちらを見ていた。