溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
そこに乗っていた小さな鍵をとった新城さんは、すぐさま手錠の鍵穴にそれを差し込む。
ガチャリと音がして、手錠がはずれた。
「さあ、逃げてくださいお嬢さん」
「お嬢さんって……私? 逃げろって、どういう意味?」
「はい。あなたは私の先輩、本庄さんの娘さんですね。ここはじきに火の海になります。その前に、あなただけは逃げてください」
「どういうことだ」
新城さんが口を挟んだ瞬間、ジリリリリリとどこかで火災報知機が鳴るような音が聞こえてきた。
「こういうことです」
すっと、三田さんがスーツの懐から何かを取りだした。
一見キウイフルーツのように見えたカーキ色のそれは、頭に銀色の金具と、輪っか状のピンが付いている。
「下がれ!」
矢作さんが叫ぶと、二人のSPが私を背後に隠して後退した。
あれは、手榴弾だ。なぜ三田さんがあんなものを。
「ど、ど、どういう……」
パニックに陥ったのか、まともに言葉も発せなくなったアホ息子が体を震わせる。