溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「誰も殺させない。誰も死なせない」
呪文のように呟いた新城さんは、男たちの頬を叩き、肩を揺らす。
その間にも、火はあっという間に絨毯を敷き詰めた床に広がっていく。
「矢作、頼む」
「……わかった。こいつらを脱出させたら、すぐに応援にくる」
矢作さんの手が、私の腕をぐいと引いた。
「そんなっ。離してください。私も新城さんと残ります」
「その足じゃ無理だ」
「だって、新城さん一人じゃいくらなんでも」
だだをこねる私を、矢作さんがきっとにらんだ。
そして、頬を軽く手のひらで打つ。
──パシッ!
軽い音がし、少しの痛みを覚えた。
「お前は、新城の足手まといになりたいのかっ!」
そんなわけない。でも、このまま置き去りにするなんて。
あのとき別れてしまった幼なじみのお兄ちゃん。
十九年も時を経て、やっと会えたのに。
じわりと涙をにじませた私に、新城さんが歩み寄ってきた。
「矢作、簡単に殴ってくれるなよ。こいつは俺の大事な女なんだから」
「……わかってるけど」
矢作さんは反論しかけて、やめた。
言いあいをしている時間はないと思ったのだろう。