溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「大丈夫。また必ず会える」
新城さんはにこりと笑うと、体を離し、私の背中を押した。
そして、矢作さんと一緒に、アホ息子と三田さんも部屋の外へ追いやる。
振り返る間もなく、新城さんは煙の立ち込めはじめた部屋の中へ姿を消してしまった。
ああ、またあの時と同じだ。
あなたは私を、そして他の人を守るために、自分を顧みずに駆けていってしまう。
「も、もうダメだ」
アホ息子の声で、我に返る。
涙を拭き、廊下を見ると、そこもすでに火の手がちらほら上がっていた。
おそらく、入り込んだテロリストが点火していったのだろう。
「大丈夫。煙を吸わないように、口を覆って」
私は腰の抜けている三田さんに肩を貸し、歩きはじめる。
「お嬢さん、置いていってください。生き残っても、どうせ私は殺される」
「私がそうはさせない」
「お嬢さん……」
「残された家族の気持ちを、あなたは何もわかっていない」
残された者たちが、どれだけ深い絶望を抱えるのか。
記憶は完全ではないけれど、魂が記憶している。
それはとてつもない痛みだ。
三田さんはハッとしたような表情を見せると、深くうなだれ、それ以上は何も言わなかった。