溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「お前も歩けよ」
「そ、そんなこと言って、どうせあとから俺を殺すつもりだろっ」
アホ息子は矢作さんに抱えられたまま、私を見上げた。
そんな彼の頬を、私は矢作さんの真似をして打つ。
「殺してやりたい。再起不能なまでにうちのめしてやりたい。私にはそれができる。でも、そうはしない」
頬を打たれたアホ息子は、また泣いていた。
「泣くな! 前を見て、歩きなさい! 私はSP。だから、どんなにひどい、最低なマルタイであろうと、私はあんたを守る!」
そう言うと、痛む足を引きずって歩き出す。
三田さんの息がかかったテロリストがまだどこかに潜んでいるかもしれない。
彼らは、国分親子の完全な消滅を望んでいるはずだ。
火事の混乱に乗じて、命を狙っているだろう。
私たちは周囲に十分な注意を払いながら、火のついた屋敷の中を歩く。
任せて、新城さん。
私は私たちのマルタイを守り抜いてみせる。
だからあなたも、どうか無事で戻ってきて。
そして今度こそ、笑顔で会いましょう。
今度こそ、素直になるから。まだ伝えていない言葉を伝えたいの。
私はあなたが大好きで、世界で一番大切なのだと。