溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「とにかく、マルタイの安全を確保しましょう。大西、こいつをクソ親父の元に届けてやれ」
矢作さんが指示する。
「え、あ、はい。あれっ、なんで鼻血が出てるの? 転んだ?」
何も知らない大西さんはアホ息子を立たせ、人波をかき分けて屋敷の敷地を出ていく。
そうするうち、離れの入口から出てくる人影が煙の中に見えた。
「新城さん!」
「おい、待て」
矢作さんの制止も聞かず、煙の方へと駆けだす。
けれどそこに現れたのは、先ほどまで戦った敵たちの姿だった。
どうやら新城さんに起こされ、支え合いながらどうにか脱出してきたらしい。ひとりも欠けてはいない。
彼らは外に出ると、安心したのか、どっと倒れ込む。
「ねえ、新城さん……警棒を持ったSPは?」
尋ねるけど、男たちは首を横に振るだけ。
「あいつは……もう助からない」
かすれた声が聞こえ、振り向く。
そこには、刀を振り回していた大男がいた。