溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「どういうこと?」
「火が燃えて、天井が崩れた。あいつは下敷きになった」
「なんですって」
「先に逃げろと言われた」
短いセンテンスを搾りだした男は、それきりうなだれて黙ってしまった。
そんな。新城さんが、天井の下敷きに……。
ぞくりと、全身を震えが走っていった。
「助けに行かなきゃ」
考えるより先に、体が動いた。
けれど、再び火の中に飛び込もうとする私の腕は、誰かにつかまれる。
「待てよ」
振り返ると、そこには怖い顔をした矢作さんが。
「消防隊を待った方がいい。今飛び込むのは無謀だ」
言っていることはわかる。
「でも、消防隊がいつ来るかわからない」
それに消防隊がきても、すぐに離れの方まで消化活動を始められるかわからない。
なにしろ母屋の方はもっとひどく燃えている。
隣家に燃え移る可能性だって、あっちの方が高そうだ。
消防隊は、母屋の消化を優先させるだろう。