溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「はい、一ノ瀬さんも。矢作、お前はすべての事情を知っているんだな」
「ええ」
高浜さんに渡されたホースから出る水で、自分の体を濡らす。
気休め程度だろうけど、やらないよりはましだ。
「じゃあ、三田さんとその男たちを頼む。誰かに危険があったら電話するから。消防隊が到着したら、こちらにも人を回してくれるよう頼んでくれ」
「マジっすか」
一気にたくさんの任務を負った矢作さんは、顔をしかめる。
「では、行きましょう。案内を頼みます」
「はい」
私たちは開けたままの玄関から、その中へ入っていく。
あちこちから火の手が上がっていて、中には黒い煙が充満していた。
少し近づいただけで熱く、息苦しさを感じる。
けれど、躊躇している時間はない。
私たちは身を低くし、時々焼け落ちてくる壁や柱の欠片に注意しながら、新城さんがいるはずの部屋を目指した。