溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


ひざをついて彼の顔をよく見る。

茶色の前髪がかかったまぶたは閉じられていて、長いまつ毛はぴくりともしない。

ただ、倒れていたおかげで致死量の煙を吸わずに済んだのか、呼吸は規則的だった。

けれど、通常の呼吸より、だいぶ細い音がしている。

早くここから連れ出さなければ。


「新城さん、新城さん」


名前を呼んで、肩を叩いてみる。

けれど、返事はない。


「一ノ瀬さん、協力して瓦礫をどかしましょう。その方が早そうだ」

「はい!」


高浜さんの提案にうなずく。

立ち上がると、もくもくと立ち上る煙に、すぐに喉や肺がやられそうになった。

一番上にあった瓦礫を、高浜さんが抱き上げるようにして宙に浮かせる。

普通の人間にはまずできないことだろう。


「よいしょ!」


高浜さんはそれを注意深く横にどけると、次の瓦礫に取り掛かる。

私は自分で持ち上げられそうな瓦礫を、手当たり次第に放り投げた。

けれど。


< 232 / 279 >

この作品をシェア

pagetop