溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「つっ……!」
思わず瓦礫から手を離してしまう。
開いた手の平にはいつの間にか切り傷がついていて、赤い血で濡れていた。
「もう、いいから」
「いいわけない」
「このままじゃ、お前が危ない」
「あなただって」
「俺はいいよ」
俺は、いい?
何がいいって言うの。
私が助かれば、自分はどうなっても構わない。
そんな王子様みたいな台詞で、綺麗にさようならできるとでも思っているの?
「あなたは良くても、私は良くありません!」
力ずくで、瓦礫をどけた。
その反動で、私は床に座り込む。
すぐそこに、新城さんの汚れてしまった顔があった。
「私は、もう、大切な人を失いたくない」
涙が溢れてくる。
本当の両親はもういない。
あのとき、少年だったあなたにはもう会えない。
でも、大人になったあなたは、まだ目の前で生きている。
やっと、やっと会えたんだ。
本当の私が恋焦がれていた、初恋の相手に。
この世の何より大切だと思える人に。