溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
『娘がいたぞ!』
『やれっ、逃がすな!』
襲いかかってこようとした男の腕の下をすり抜け、後ろにいた男の腰を、思い切り押した。
彼はバランスを崩し、階段から落ちていく。
その体の上を走ると、『ぐえっ』とカエルがつぶれるような声がした。
殺し屋はその二人以外いなかった。
背後で怒鳴り声が聞こえ、恐ろしくなった俺は、夢中で玄関を飛び出した。
もちろん、靴を履いている暇なんてなく、裸足で家から全力疾走した。
でも、どこに行けばいいんだろう。
男たちはまだ姿を見せないが、すぐに俺を追ってくるだろう。
このまま家に帰れば、自分の家族が巻き添えを食うかもしれない。
角を曲がり、地元の人間もほとんど通らない狭い路地に入る。
電柱の影に隠れ、じっと様子をうかがっていると、その路地の存在に気づかず、前の通りを駆け抜けていく男たちが見えた。
血で汚れた衣服を着替え、自分たちの痕跡を消すために、少しの時間がかかったのだろう。
それが俺の命を繋いでくれた数分間だった。