溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
男たちの足音が聞こえなくなった途端、膝から力が抜け、立っていることが困難になった。
ずるずると古い民家のブロック塀に背中を預けたまま、地面に座り込んでしまう。
そこで初めて、自分が震えていることに気づいた。
これからどうしようか。
殺人を犯した者が、現場から早く立ち去るものなのか、目撃者をしつこく探すものなのか、どちらが普通かもわからない。
途方に暮れていると、突然視界が暗くなった。
驚いて見上げると、そこにはスーツを着た、恰幅の良い中年男性が。
『……ぁ……っ』
もしかして、殺し屋の仲間?
そう思うと、声も出なかった。
しかし、男性は俺に手を差し出す。
『お嬢さん、どうかしたのかね』
優しい声を出すそのおじさんは、善良そのものという顔をしていた。
この顔には見覚えがある。
たしか、ひかりのお父さんの友達で……一度本庄家で会ったことがある人だ。
『た、助けて──』
俺は思わず、おじさんに抱きつくようにして、立ち上がった。