溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
『ひかりちゃんは、しばらくこの病院で保護していたんだ。知り合いの医者がいてね』
そうだったのか。
ひどいショックを受けていただろうから、それも自然だろう。
俺はすぐそばにあるベッドで、幼いひかりが横たわっている姿を想像した。それはとても容易なことだった。
『私は本庄の友人だった。私の養女にしては、すぐに敵が嗅ぎつけるだろう。かといって、全く知らない人間の元にやるわけにも、孤児院に入れるわけにもいかない。元の戸籍を見れば、彼女が本庄ひかりだということはすぐに知られてしまう』
中河さんは、俺の方を向きながら、どこか遠い世界を見ているような目で語る。
その声は、昔よりいくぶんかしわがれていた。
『そんなとき、頼りにしていた医師が、俺に相談を持ち掛けた。ひかりちゃんをある人物の養女にしないかという話だ』
『それは一ノ瀬さんですか』
『そうだ。彼の娘はひかりちゃんと同い年だった。そして、不幸な交通事故で、今にも息を引き取ってしまいそうな状況だった』