溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


中河さんが言うには、一ノ瀬さんの娘さんは、トラックと衝突して植物状態となっていた。

それが事件の前後から、著しく状態が悪くなっていたとのこと。

体の生命力が、みるみるうちになくなっていくのを、周囲の人間はひしひしと感じていたらしい。


『一ノ瀬夫妻は、娘の死を覚悟し、とても悲しんでいた』

『当然です』

『そしてある日、とうとう彼女は亡くなった。しかし、そのことを知っているのは、ごく限られた人間だけ』


どういうことだろうと思った。

それ以上は、中河さんに触れて記憶を見ない限り、推測しようもない。


『ひかりちゃんは失われた一ノ瀬夫妻の娘の代わりになった。言い方は悪いが、結局はそういうことだ。本当の一ノ瀬の娘の遺体は秘密裏に埋葬され、その戸籍を乗っ取る形で、“本庄ひかり”は“一ノ瀬紫苑”となった』

『なっ……』


死んだ娘を死んでいないことにする。

つまり、ひかりを替え玉にし、死んだ娘の戸籍だけが生き続けるということ。

死んだ娘の死亡届は出されず、遺体は秘密裏に処理された……。





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