溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
『それは、犯罪です』
『死体損壊罪か、公文書偽造か』
中河さんはそれまでと同じ、落ち着き払った顔で言った。
『いずれにしても、やっていいことじゃない』
『それでも、そこまでしなければ、ひかりちゃんを守ることはできなかった』
思わず立ち上がった膝の力が抜けていく。
もう一度腰を下ろすと、中河さんは重要な仕事をやり終えたあとのように、ふうと大きく息を吐いた。
『一ノ瀬夫妻も、彼女の素性は知っている。無理やり家族と引き離された者どうし。放ってはおけない。そう言ってくれた彼らはとても温かく、ひかりちゃんを迎えてくれた』
『それまでのひかりの記憶は……どうして失われているんでしょう』
『それは、彼女が勝手に失ってしまったんだよ。両親の遺体を目にしたショックで、彼女はその恐ろしい記憶に蓋をしてしまったんだろう。それまで過ごしてきた幼い日々と一緒に』