溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
……長い夢をみていたようだ。
ゆっくりと目を開けると、見覚えのある天井が視界に映った。
周囲はクリーム色のカーテンで覆われている。
ああ、ここはあの病院だ。
中河さんと話したあの個室と、椅子もベッドも同じだった。
ただ違うのは、ここは大部屋特有のカーテンの仕切りがあるということ。
ふと手のひらに温かみと重みを感じ、横を見る。
そこには、紫苑がいた。
椅子に座り、俺の手をにぎったまま眠り込んでしまったようだ。
隣のテレビ台に体をあずけ、彼女はすやすやと寝息を立てている。
安らかな寝顔は、幼いころの彼女を想起させた。
「……また俺は、何もできなかったな」
守るつもりが、逆に救われてしまった。
紫苑がいなければ、俺は今頃灰になっていたことだろう。
あのとき守れなかった、小さなお姫様は、もうどこにもいない。
今目の前にいるのは、切なくなるほど綺麗で強い、ひとりの女性だった。