溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


「そろそろ終わるな」


新城さんが時計を見て言った。

結局、交互に昼休憩をとったあとは、予想通り議事堂の周辺の見回りをした。

そろそろ本会議が終わってぞくぞくと議員たちが外に出てくる頃だ。

議事堂の中も外も、SPたちや運転手の車の出入りでにわかに慌ただしくなる。


「そういえば、国分議員の顔、俺わかんないや」


大西さんがハッとした顔で言う。


「SPなのにそんなことでどうするんですか……って、私もわからないんですけど」


いつも訓練で疲れ、帰宅したあとはテレビも見ずに寝てしまっていたからなあ。

SPになった以上、要人の顔はだいたい覚えているけど、一般議員の顔まではわからない。


「お前らなあ。まあいいや、俺知ってるし」


新城さんは小さくため息をつき、議場の出入り口で議員を待つ。

やがて重い扉が開き、ぞろぞろと議員が出てくる。

けれど、私たちの警護対象者はなかなか出てこない。

やがて人の波がおさまり、ほとんどの議員が議事堂の出入口に向かっていく。


「あのう、新城さん。まさか、見逃しました?」


人が多かったから、わからなかったとか。


「いや、そんなはずはない」


新城さんは中へと足を踏み入れる。

それに私と大西さんも続いた。

すり鉢状の会議場のなか、ずらりと並ぶ無数の議席のひとつに、スーツの男の人が突っ伏すようにしていた。


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