溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「まさか……!」
慌ててその人の近くに駆け寄る。
その席の黒い四角柱の氏名票を見ると、たしかに『国分洋一』と書いてある。
まさか、私たちより先に議場にテロリストが?
襲われて死んでしまったんじゃあ……とドキドキしながら近づくと、私より先に新城さんが国分議員の肩を叩いた。
「もしもし」
「はっ!」
ぽんぽんと肩を叩かれた国分議員は、雷に打たれたようにびくっと全身を震わせて跳ね起きた。
その口元には、きらりと光るよだれのあとが……。
まさかこの人、会議中から寝てたの?
「え……と、誰、あんたたち」
国分議員は乱れた前髪を直しながら言った。
髪は議員らしく短くさっぱりとしているけど、顔はタレ目と眉の間が広く、ちょっとだらしない印象を受ける。
鼻は高いというか大きくて、これまた口との距離が広い。なんか……馬に似てる。
「警視庁SPです」
「SP?なんで?」
新城さんが警察手帳を提示し、手短に事情を説明していると……。
「ああ、いたいた坊ちゃん!また寝ていらしたんですか?」
空きっぱなしの扉から、スーツの初老の男性が走ってきた。
議場の急な階段を、よたよたと降りてくる。