溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「だから、結婚してあげる」
言い終わるか終わらないかのうちに、彼の両腕が私を強く抱きしめた。
見上げると、昔と変わらない透き通った瞳に吸い込まれそうになる。
静かな水面のようなそれに見惚れていると、そっと唇がふさがれた。
まぶたを閉じ、その柔らかさに身をゆだねる。
唇で、全身で感じる彼の温かさは、まるで母親の羊水を思わせる。
その優しいゆらめきは、長い間失っていたものを、ゆっくりと押し戻してくれるような気にさせた。
唇が離されても、胸は熱いままで、気づけば涙がひとすじ、頬を伝っていた。
「もう離さない」
彼が優しく微笑み、囁く。
そうするとごく自然に、自分の顔にも微笑みが浮かぶのがわかった。