溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「すみません。部屋を間違えました」
SPがいる警護課が、こんなに騒がしいわけがない。
「いやいや、間違ってないって。あんた、一ノ瀬サンだろ?今日から特殊班に配属された」
一応静かにしていた二人のうち一人が苦笑して、私を引き留める。
黒い髪を眉毛につかないくらいまで短く切った、精悍な目つきをした男性だ。
「そうですけど……」
「よく来てくれました。私が特殊班班長の上地です。初めまして」
茶髪の中年男性がへらへらしながら近づいてくる。
まさか……この頼りなさそうな男性が、班長だと?
いや、人は見た目で判断してはいけない。
「……初めまして。今日から配属されました、一ノ瀬紫苑(いちのせ・しおん)と申します。よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げて上げると、班長の横に若いSPたちが横一列に並んでいた。
「はい、こちらこそ。まあ、みんなで仲良く楽しくお仕事しましょう」
仲良く楽しくって……。
「この一番でかいのが高浜。一応、現場リーダーみたいな感じです」
高浜さんは、最初にドアを開けてくれた人だった。
よろしく、と人畜無害そうな笑顔で微笑む。
ふうん、さすがリーダー。一番ちゃんとしてそう。