溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「あまり密着していると、警護ができません。適度な距離を保っていただくよう、お願いいたします」
冷静な口調だけど、その声は怒気を孕んで聞こえた。
「なんだよ、つまらないな」
国分議員は不快そうだったけれど、さして怒ることもなく、すたすたと歩きだした。
「ほら……坊ちゃんはああいう方なんです」
そう言い残し、三田さんが議員の後を追っていく。
私たちも慌てて、彼の前後を囲み、警護が始まった。
なるほど、そういうことか。
三田さんは女性SPが頼りないから不満があったわけじゃない。
国分議員が女性にだらしないから、余計なトラブルを増やしたくなくてそう言ったんだろう。
新城さんの言葉が頭の中に甦る。
『この任務は、お前にとって良くない影響を与える』
『国分議員とお前は合わないだろうってことだよ』
それって、こういうことだったの?
もしかして、議員が女にだらしないことを知っていたのかも。
それならそうと、言ってくれれば良かったのに。
まさか初めてのマルタイが、こんな曲者だなんて。
ため息をつきそうになったけど、首を振って気持ちを切り替える。
私はSP。マルタイがどんな人間であろうと、最後まで守り抜かなければ。