溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「大西!」
「はいっ」
名前を呼ばれただけの大西さんが、手首を押さえている敵の近くに走る。
一足飛びで近づいた彼は、敵が落としたナイフを、駐車場の隅まで蹴り飛ばす。
私は国分議員の前に立ち、彼に抱きつくようにして、壁際に追い詰めた。
「え?この状況で壁ドン?」
国分議員は戸惑った顔で言う。
そんなわけないでしょ。敵に回り込まれたら大変だからに決まってる。
そうしている間に、大西さんが丸腰になった敵に素手で向かっていく。
残る二人の敵が、新城さんの前にいた。
グレーのTシャツを着た男と、迷彩柄のベストを着た男。
二人ともナイフを持っている。サングラスで、表情が読めない。
援護するべきかと迷った、そのとき。
「一ノ瀬!マルタイの安全確保!」
新城さんがこちらを向いて怒鳴った。
その顔は今まで見たことがないくらい、鬼気迫っていた。
いつものクールな表情とは、全く違う。
私は黙ってうなずいた。
「議員、このままエントランスまで走ります。決して私の後ろから出ないように」
壁際にいる国分議員は、戸惑いながらもこくりとうなずいた。
私は彼の肩に手を回し、エントランスへ繋がる階段へと走る。
「逃がすか!」
初めて敵が声を出した。
振り返ると、大西さんが一人の背中に馬乗りになり、手錠をかけているところだった。
そして新城さんは……。