溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


──ギン、ギィン!


連続して振り下ろされる二つの刃を、人とは思えない速さで交互に撃ち払う。

するとグレーのTシャツの男がもう一度、新城さんに斬り込む。

相手も相当早い。

たらりとこめかみに汗が流れるのを感じたと同時、後方の様子を見ながら議員の背を押して走っている私たちの方を、迷彩ベストの男がにらむ。

そして、グレーTシャツの男と格闘している新城さんの脇をすり抜け、私と議員の方へ向かって来た。


「紫苑!」


敵の刃とつばぜり合いになっている新城さんが私の名を呼ぶ。


「議員、伏せてください!」


冷静になれ。大丈夫だ。

私は駆けてくる相手をじっと見つめる。

ナイフを持った右手が、どう出るか。

振り上げるのか、突きにくるのか。

その切っ先が目の前に迫った瞬間、その肘の関節が動く。


見えた──。


気合を入れ、敵の手首をつかむ。

そのままぐいと引き寄せると、相手のベストの襟をひっつかみ、体を滑り込ませながら反転した。


──ズダアアアアン!


まるで雷が落ちたような音を立て、投げ飛ばした敵はしたたかに背中を地上に打ち付ける。

ナイフを奪い、強くにぎったままだった右手を離すと、それは力なく床に落ちた。

どうやら、気を失ったみたい。

念のため、お腹の上で相手の手を合わせ、手錠でつないでおいた。


< 35 / 279 >

この作品をシェア

pagetop