溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
──ギン、ギィン!
連続して振り下ろされる二つの刃を、人とは思えない速さで交互に撃ち払う。
するとグレーのTシャツの男がもう一度、新城さんに斬り込む。
相手も相当早い。
たらりとこめかみに汗が流れるのを感じたと同時、後方の様子を見ながら議員の背を押して走っている私たちの方を、迷彩ベストの男がにらむ。
そして、グレーTシャツの男と格闘している新城さんの脇をすり抜け、私と議員の方へ向かって来た。
「紫苑!」
敵の刃とつばぜり合いになっている新城さんが私の名を呼ぶ。
「議員、伏せてください!」
冷静になれ。大丈夫だ。
私は駆けてくる相手をじっと見つめる。
ナイフを持った右手が、どう出るか。
振り上げるのか、突きにくるのか。
その切っ先が目の前に迫った瞬間、その肘の関節が動く。
見えた──。
気合を入れ、敵の手首をつかむ。
そのままぐいと引き寄せると、相手のベストの襟をひっつかみ、体を滑り込ませながら反転した。
──ズダアアアアン!
まるで雷が落ちたような音を立て、投げ飛ばした敵はしたたかに背中を地上に打ち付ける。
ナイフを奪い、強くにぎったままだった右手を離すと、それは力なく床に落ちた。
どうやら、気を失ったみたい。
念のため、お腹の上で相手の手を合わせ、手錠でつないでおいた。