溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「このふわんとしたのが、癒し担当の大西」
「大西です。犬と植物が大好きな、27歳でーす♡」
最初から班長と一緒にへらへら笑ってばかりいる、女のような顔のひとが手を上げた。
こんなに細くて、SPなの?弱そうだけど大丈夫なの?
「でこっぱちの矢作。ツッコミ担当」
「誰がでこっぱちっすか。んで、ツッコミ担当した覚えないんすけど」
たしかに見事な額が見えている(決して生え際が後退しているわけではないが)矢作さんは、さっき私を引き留めた人。
冷めた表情で否定をしているけど、実際に班長の発言にツッコんでしまっている。
残りは一人……。
「あと、このたらし顔が、新城。警護課の事務員の女子たちに『王子』と呼ばれています」
はあ、王子ねえ。
特に期待もせずに見たその人は、SPのくせに邪魔くさそうな長い前髪を斜めに流していた。
それに隠された、手入れをされた眉毛の下の目を見て、どきりとする。
くっきりと刻まれた、二重の線。びしりと並ぶ、長いまつげ。
その下の、暗い色の瞳。
彼と目があった瞬間、胸の中で小さな虫が飛ぶような違和感を覚えた。
「……一ノ瀬、紫苑だっけ」
「はい」
じっとこちらを見つめて問う彼の声に、聞き覚えはなかった。
「本当に?」
「は?」
本当にって、どういう意味?私が一之瀬紫苑以外の誰かだとでも言うの?
胸のざわつきが大きくなる。