溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
目の前にあったのは、古ぼけた喫茶店だった。
看板が出ていなければ、気づかないまま通り過ぎてしまいそう。
レンガっぽい壁にツタが這い回り、よく言えば雰囲気のあるお店だ。
新城さんについて店内に入ると、ドアベルのカランコロンと鳴る音が店内に響く。
「ここ、昼時はじいさんばあさんでめちゃくちゃ混んでるんだけどさ。夜はこんなもん」
狭い店内にはちらほらとお客さんがいた。
席に着くと同時、エプロンをつけた初老の女性が水を持ってきた。
白髪交じりの髪をきちんと束ね、歳のわりに高い声で聞く。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「ここはオムライスがうまいけど」
メニューを見る前にそう言われてしまった。
まあいいか。迷っている時間ももったいないし。
「ではそうします。あとコーヒーをください」
「じゃあ、オムライス二つにコーヒー二つ」
「かしこまりました」
暇そうだし、あまり待たされることもあるまい。
ふうと息をつくと、店内に静かにサティが流れていることに気づく。
昼休憩の時は無駄に話していた新城さんも疲れているのか、音楽を聞いているのか、あまり話さなかった。