溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
うるさく話す客もいない。マヌケなJ-POPが流れることもない。
落ち着いた店内で、会話もなくぼんやりするのは、意外に苦痛じゃなかった。
耳を傾けていた曲が終わった瞬間、新城さんが口を開く。
「お前、異常に動きが早いよな」
「えっ?」
「さっき、テロリストを投げ飛ばしたとき。俺が驚いたのはその力とか柔術の技とかじゃない。その速さだ」
うっかり顔を上げると、その鋭い視線と目があってしまった。
「ああ……特技なんです。私、動体視力が異常に良いみたいで」
「へえ」
話している途中に、オムライスが運ばれて来た。
ふわとろの卵にデミグラスソースがかかっている、よくあるけど美味しそうなオムライスだ。
早速スプーンでそれをすくって食べると、安心感のあるケチャップの味とトロトロの卵が口の中に広がる。
うん、たしかに美味しい。
思わず顔がほころびそうになったところで、新城さんが聞きなおす。
「動体視力が異常に良くて、なんだっけ?」
「ああ、はい。異常に良いので、集中して見ていると、相手の次の動きがわかるんです」
「どうやって」
新城さんは少し驚いたような顔で、こちらを見つめた。