溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「い、いつも集中して見ているわけじゃありませんからっ」
そう釈明して、食後に運ばれて来たコーヒーを飲みほす。
カップを置くと、頬杖をついて私をにやにやと見つめていた新城さんが、不意に言った。
「なら……これは読めるか?」
ふっと真剣な色に変わった新城さんの瞳に吸い込まれそうになる。
読まなきゃ。集中しなきゃ。
そう思うのに、うまくいかない。
新城さんが少しだけ腰を浮かせる。
テーブルの上の食器がかちゃりと鳴る。
わけがわからないうちに、豆のできた手のひらが、私の頬に、そっと触れた。
そして……。
目を閉じる暇もなかった。
唇に、柔らかくて温かいものが触れた。
それは、今まで知らなかった感触で──。
離れていく新城さんの顔が、にじんで見えた。
その次の瞬間。
──パァン!
私は思い切り、彼の頬をひっぱたいていた。
「な、な、なにするんですか──!」
「何って……テーブル越しに、キス」
いくら店内に人が少ないとはいえ、公衆の面前でなんということを!
いや、問題はそこじゃない。
叩かれても涼しげな顔をしている新城さんは、こういったことに慣れているのかもしれない。
けれど、私は、私は……。