溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「新城さんはね、触ったものの記憶が読めるんだよ」
記憶が……読める。
「触ったものの記憶がなんでもかんでも見えるわけじゃないらしいけどな。本人曰く、見ようと思わなければ見えないらしい」
矢作さんの補足説明は、頭の中に入ってこなかった。
初めて握手をしたとき、静電気が起きたような、妙な感覚がした。
その直後から、新城さんは明らかに私と初対面とは思えない態度(プロポーズとか、ひとめぼれとか、いきなりキスするとか)をとってきた。
やっぱり、私が覚えてないだけで、新城さんとはどこかで出会っていたのかもしれない。
彼が覚えている『誰か』と私が同一人物かを確かめるため、あの瞬間に私の記憶を読んだのかも……。
「あの、私……」
はっと顔を上げると、先輩たちはまたシフトの相談に戻っていた。
矢作さんに心を読まれやしなかったかと心配したけど、大丈夫みたい。
「戻りましたー……って、何してるんですか」
背後から声がして、思わず地面から浮きそうになってしまった。
暴れる胸を押さえつつ振り返ると、そこには休憩から戻ってきた新城さんが。
「ああ、今シフトを……」
「それなら、さっき班長からメールが。全員平等になるように1週間分作ったから、確認しておけって」
新城さんがスマホを取りだして全員に班長が作ったシフト表を送りだすと、先輩たちは気の抜けたような顔をした。