溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「いいえ」
そうそう。他人よ、他人。
「彼氏ではなく、婚約者です」
新城さんは真面目に言いなおす。
それも違う!!と反論しようとしたけど、新城さんはきっと私に鋭い視線を送ってきた。
これは……そうしておけば、このバカ息子が黙るだろうと……そういうことですね?
吐き出す直前だった息をごくりと飲み込み、バカ息子の様子をうかがう。
しかし彼は何も意に介さない様子で、ふーんと気の抜けた返事をした。
「じゃあ、婚約破棄してもらえば問題ないな。慰謝料はたっぷり支払うよ」
こいつ……お金ですべてを解決しようとしてる!
どうしてそんなに私に専属SPになってほしいの?
たった一度、テロリストから守っただけなのに。
他にも、腕のたつSPはたくさんいるのに。
「申し訳ありませんが、私は今誰と結婚するつもりも、警視庁を辞めるつもりもありませんっ!」
大きな声をはると、三田さんが地面から浮くくらいびくっと体を震わせた。
「へえ……聞いたか?彼女はお前と結婚する気はないみたいだぜ?」
バカ息子はニヤリと笑って新城さんを見る。
「宣戦布告なら、受けて立ちますよ」
新城さんも不敵な笑みで返す。
「お二人とも、ケンカはやめてください!お願いだから、仕事してくださ~い!」
三田さんが二人の間に入って懇願した。
ああ、この人も苦労が絶えないのね……。
私はわけのわからない二人よりも、哀れな三田さんの寂しくなってきた後頭部を見つめて、切ない気持ちになった。