溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「すみません、お坊ちゃま、一ノ瀬さん。少し出てきてもいいでしょうか」
秘書の三田さんが聞いてくる。
その手にはスマホが握られていた。
どうやら、どこかから電話がかかってきているみたい。
「ああ……このあとはもう用事はないだろう。直帰していいぞ。帰りはSPが送ってくれるし」
「左様ですか。では……お疲れ様でした」
三田さんはほっとしたような表情で、そそくさと会場を出ていく。
いいなあ……私も早く帰りたい。
場違いなほどきらびやかな世界は、どうも私には向いてないみたい。
「ほらシンデレラ、ジュースだよ」
いつの間にゲットしたのか、炭酸飲料が入っているらしきグラスを差し出しながら、馬面バカ息子が微笑む。
「はあ、どうも」
誰がシンデレラだ。別にそんなものになりたくないし。
心の中で悪態をつきながらも、昼食を食べていなくて喉がからからだったので、それをもらうことにした。
けれど。
「う……!」
ぐいっとそれを飲みほした瞬間、独特のにおいと苦みが口から鼻孔に抜けていく。
これ、ジュースじゃない!
「これ、お酒じゃないですか」
自慢じゃないけど、アルコールには強くない。
「ん?こんなのジュースみたいなものじゃないか」
アルコール度数が低いということか議員がお酒に強いということか、それは知らないけど。