溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「まずいですよ。飲んだりしたら、警護ができなくなります」
「いいよ。他にもSPはいるんだし。今日はひとりの女の子として、俺の傍にいてよ」
そういって、にやにやと笑ってこちらを見る国分議員。
こいつ……わざとだな?
一杯飲んだだけじゃ、普段はどうともない。
けれど、今は空腹の限界を超えている。
あっと言う間に鼓動が早くなり、体が火照ったような感覚に襲われた。
「食べる?」
差し出されたのは、クラッカーにチーズだのサーモンだの乗ったもの。
ああ、名前も出てこない。そんな小洒落た料理、いらない。すでにちょっと気持ち悪いし……。
「いえ、それより水を……」
水をもらおうと黒服の近くに行こうとした瞬間、ぐいと腕をひかれてしまった。
なんだ?
振り返って議員をにらむと、そこには見知らぬ男女が。
二人とも30代半ばだろうか。この場所にあった華やかな装いで、余裕を浮かべた表情で微笑んでいる。
「国分さん、こんばんは。こちらのお綺麗な方はどなたかしら?」
女性の方が私を見て興味津々に聞いてくる。
「僕の大事な人です」
「ほう。やっと君も、身を固める気になったのかい?」
「僕はそうしたいんですが、彼女はなかなか首を縦に振ってくれなくて」
おいおい、何の話だよ。
後ろから蹴ってやりたいけど、ここは大人の対応で曖昧に笑っておくしかないか。
「で、彼女はどこの御令嬢だい?初めて見る顔だけれども」