溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「じゃあ、この子も一緒でいい?」
「は?」
突然背中を押されたと思うと、私は外務大臣の前に姿をさらしていた。
「この人は?」
私を見る外務大臣の目がすっと細められる。
いったいどこの馬の骨だ?と言いたげな目だ。
あなたたちの方がよっぽど馬っぽいお顔なのに……。
「俺についてるSPの一人、一ノ瀬紫苑ちゃん」
「ちょっ……!」
やっぱりバカ!なにアッサリ人の正体を暴露してくれちゃってるのよ!
外務大臣についているSPたちが、驚いたような顔でこちらを見ている。
やばい、しゃきっとしなくちゃ。飲酒がばれたら本当にまずい。
「俺、この子が気にいったんだ。警視庁を退職して、一生俺の専属SPになってくれないかって口説いてるところ」
「一ノ瀬……?」
外務大臣は遠慮なく、じいっと私の顔を凝視する。
何か考え込んでいるのか、右手で自分のアゴをいじっていた。
「いえ、あの、今のはご子息の冗談ですよ。私はただの小娘です」
まるで時代劇で町娘に変装しているのがばれたくノ一のようなセリフを残し、バカ息子の袖を引く。