溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「なんだ?」
「停電?」
周囲はあっという間に闇に包まれる。
一寸先も見えなくなった招待客たちが、ざわめきだした。
「まさか……」
ここには外務大臣も、その息子もいる。
もしかして、襲撃?
暗闇に慣れてきた視界の端に、ばたばたと走っていく人たちの姿が見えた気がした。
「今安全を確認します!その場を動かないでください!」
高浜さんの声が、どこかから聞こえる。
さっきのは多分、従業員か民間SPか、誰かが電源の確認をしに行った足音だろう。
「い、一ノ瀬ちゃあん……」
情けない国分議員の声が、後ろから聞こえる。
「大丈夫。私はここにいます」
そう答えた途端、素早い足音がいくつかした。
ゴム底の靴を履いたような、静かな足音だ。
この場には不似合いな……。
「紫苑っ!!」
自分の名を呼ぶ声がして、はっとした瞬間。
横から小さな細い光が、私の目の前を照らした。
見えたのは、ウェイターらしき人物が、手に銃を持ちこちらに構えている姿──。
「危ない!」
私は咄嗟に、背後にいた国分議員に抱きつくようにして、彼の盾となる。
その瞬間、細い銃声が耳をつんざいた。